認知症薬の科学的な効果とリスクは?

こんにちは!
現在、小規模多機能型居宅介護にて介護士やってます、TARO(@taro26179991)です。


皆さんは、「認知症薬の科学的にどのくらい効果があるか?」「副作用のリスクは?」って考えたことがありますか。

今回は「A Risk-Benefit Assessment of Dementia Medications: Systematic Review of the Evidence(Jacob S.backley&Shelley R.Salpeter)」(認知症薬の危険性と効果の評価)という論文を紹介します。この論文では、認知症と軽度認知症(MCI)の研究(~2014年11月)をまとめ、認知症薬の効果とリスクを検討しています。


認知症の薬物療法って?

まず現在、認知症を根本的に治療する薬はありません。
では認知症の薬物療法が何を目的としているかというと、認知症の症状である①認知機能障害や②行動・心理症状(BPSD)の改善が目的です。

①短期記憶の低下や遂行機能(買い物・外出・調理等)の障害を改善する。

②徘徊や幻覚、興奮・不安などのBPSDを改善する。個々の症状によって、個別の対応が必要。

今回は認知症の方全体の治療として、①認知機能の改善を目的とした薬について、認知症の種類・段階(MCI~末期)における効果とリスクを検討しています。

現在FDAで承認されている認知症薬は2種類

コリンエステラーゼ阻害剤(ChEl):ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン、リバスチグミン

薬の作用は?
アルツハイマー型認知症が進行すると、神経伝達物質(アセチルコリン)の合成・放出が減少する。またアセチルコリンを分解する酵素の活性も増加するため、脳のアセチルコリンがさらに減少する。そこでChElがアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、アセチルコリンの減少を抑え、認知機能の改善を図る。

NMDA拮抗薬:メマチン

薬の作用は?
認知症の進行によって、脳でNMDAグルタミン酸受容体が過剰に刺激され、神経毒性を起こす。NMDA拮抗薬はグルタミン酸の必要な機能を妨げることなく、過剰な興奮による神経毒性を抑える。

どちらもレビー小体型や血管性認知症にも効果があるされています。

方法は?

認知症と軽度認知症害の治療におけるChElとメマチンの効果と利点を評価した257件の研究論文をまとめている。認知機能の改善の指標には、認知症検査に一般的なミニメンタルステート検査(MMSE)ほか、ADAS-cog、SIB(Severe Impairment Battery)などが用いられている。


結果(認知症薬の効果とリスク)

コリンエステラーゼ阻害剤(ChEl)

認知症の各段階・種類におけるChElの効果は次の通りです。


3~6か月間の研究では、軽度~中程度のアルツハイマー型認知症、およびレビー小体型で認知機能の少しの改善が見られています。(MMSE:平均1.5点↑/30点中、ADAS-cog:平均2.5点↑/70点中)

その他の、MCIや重度のアルツハイマー型認知症、血管性認知症は、認知機能の改善に有意な差が確認できていません。また年齢(85歳以上)、治療期間(1年以上)が増加すると、効果が低下していきます。

ある養護施設入所者の集団(平均年齢85歳)では、ドネペジルの有効性は24週で有意な改善が見られなくなっています。

ChElの副作用は?

ChElによって、中枢及び末梢でも神経伝達物質(アセチルコリン)が増加にすることにより、様々な悪影響を起こす可能性があります。

消化器官への影響
6か月間のアルツハイマー型認知症者への試験においてプラセボ(効果のない偽薬投与)と比較して、腹痛・悪心・嘔吐・下痢・食欲不振が2~5倍増加し、有意な体重減少も3倍増加しています。
ある認知症の老人ホームでは、ChElの使用で体重減少する方が2倍に増加しました。高齢者にとって、体重減少のリスクは高く、生活の質の低下や運動機能の低下に直結します。

神経系・心血管系への影響
同じく、プラセボとの比較で、頭痛・めまい・不眠症・目まいが2~5倍増加し、筋肉痙攣は13倍に増加します。また徐脈や失神のリスクも2倍に増加しています。他にも疲労や無力症の症状がみられます。

以上のように、ChElの服薬には副作用のリスクを伴います。

メマチン

メマチンは中度から重度アルツハイマー型認知症者に対して、3~6か月間で認知機能の少しの改善がみられています。(3か月間の試験SIB:4点↑/133点中)また血管性認知症でも少しの改善がみられます。ただし6か月以上の試験では有意な差が見られなくなります。

その他、軽度認知障害やレビー小体型では認知機能の改善が有意な差として確認できていません。

メマチンの副作用については、試験条件下では比較的良好であるとされています。

まとめ

  • 認知症薬の効果は認知症の各段階、種類によって異なる。(統計的な研究のため、個人差あり)
  • ChElは特に副作用のリスクがある。治療の開始から本人の体調を注意深く観察していく必要がある。
  • 長期の薬物治療や高齢での治療は効果が下がり、副作用のリスクの方が高くなる。認知症薬の治療を中止するという選択も大切である。

ぜひ認知症薬の効果やリスクを考慮した上での治療を。

参考資料
A Risk-Benefit Assessment of Dementia Medications: Systematic Review of the Evidence(Jacob S.backley&Shelley R.Salpeter)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です