【感想】羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」


こんにちは!
現役介護士のTARO(@taro26179991)です。

今回は、羽田圭介著の『スクラップ・アンド・ビルド』という小説を紹介します。

本作は、第153回(2015年)の芥川賞を又吉直樹著の『火花』とともに、同時受賞したことでも話題になりました。在宅での介護や尊厳死をテーマとしながらも、【感動・喜び】 よりも【毒・クセ】の強い作品です。そういう小説が好きな方には、とてもお薦めの一作です。


あらすじ『スクラップ・アンド・ビルド』

求職中の28歳の健斗は、母と祖父と同居する。祖父は口癖のように「じいちゃんなんて早う死んだらよか」とぼやく。健斗は祖父の願いをかなえようと、ある計画を思いつき、実行していく。自らは肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。祖父の願いを願いを叶える計画とは何か?人生を再構築中の青年は、祖父との同居を通して次第に変化してゆく―。


『スクラップ・アンド・ビルド』とは?
老朽化したり陳腐化したりして物理的または機能的に古くなった建物、設備を廃棄し、最新の施設・設備に置き換えることをいいます。

以下、『スクラップ・アンド・ビルド』を読んで、個人的に面白かった部分を紹介していきます。まだ読んでいない方のために、なるべく本筋のネタバレは避けますが、一部ネタバレを含みます。

感想『スクラップ・アンド・ビルド』

生活の介護と主人公のある計画

求職中の主人公・健斗とデイサービスへ通う祖父との何気ないやりとりが中心に物語が進んでいきます。母も含めると、3人の家族の会話には、在宅介護をする一家族を切り取ったかのような生活感がにじみ出ています。『介護』それ自体は、決して特別なものでなくて、生活の一部であることを感じさせます。


そんな日々の中で、主人公・健斗は「死にたい」と嘆く祖父のためにある計画を思いつき、実行します。この計画の実行こそが、本小説の最大の見どころとなっています。そんな計画とは何なのか?私自身読んでいて、健斗の計画は介護の仕事への挑戦状にもとれる内容だと感じました。気になる方は、ぜひ読んでみてください。


主人公・健斗と祖父の関係

また本小説内では、主人公・健斗が自身と祖父を対比するような表現が度々登場する点です。以下は、健斗が体の痛みを祖父と比較した描写です。

祖父「足も腕も痛くてからねえ」
…健斗もこのところ全身のあらゆるところに筋肉痛がある。現役世代の健斗にとって痛みとは、炎症や危険を知らせる信号であり、筋肉の痛みに関していえば超回復をともなったさらなる成長の約束である。…
しかし祖父にとっては違う。痛みを痛みとして、それ自体としてしかとらえることができない。…だからこそ痛みを誤魔化すための薬を山のように飲み、薬という独で本質的に身体を蝕むことを厭わない。…

『スクラップ・アンド・ビルド』より

この場面では、体の痛みや筋肉痛について健斗は祖父との捉え方の違いを考えています。これまで若者と高齢者の身体を直接比較するという発想がなかったので、ある意味で新鮮な感覚でした。

他にも健斗が祖父と比較する場面はいくつか見られます。これは、求職中かつ無職の健斗が、祖父の衰えた体と比較することで、自分自身を安心させるような行動にもとれます。身の回りの家事や介護が必要な祖父が健斗に依存するように、健斗も祖父の存在が精神的な支えとなりつつあったのではないでしょうか。



祖父の口癖「死にたい」は本当なのか?

祖父は孫・健斗に次のような言葉を投げかけています。

「早う迎えにきてほしか。毎日、そいだけば祈ってる。」

「健斗にもお母さんにも迷惑かけて…本当に情けなか。もうじいちゃんは死んだらいい。」

「馬鹿になってしもた。じいちゃんは駄目やね。死んだらよか。」

『スクラップ・アンド・ビルド』より


祖父は本当に死にたかったのでしょうか?祖父の生活環境を少しまとめてみました。

  • 自宅ではある程度自立(入浴見守りや身の回りの家事は誰かの助けが必要)
  • 週2日のデイサービス以外は、家族以外との関わりがほとんどない
  • 薄暗い居室で一日の大半を過ごす
  • 団地の構造上、一人での外出は困難


以上の状況を考えると、高齢の方が生活するのには決して良い環境であるとは言えません。そういった環境の中で、祖父の「死にたい」という言葉は、家族への迷惑をかけて申し訳ないという気持ちであり、人との関わりが少なく寂しいという気持ちでもあると思います。読み進めていくと、祖父の生きることに対する言動もちらほらと見え隠れしています。

ぜひ読みながら、祖父の本当の気持ちを想像してみてください。


最後に…

今回は羽田圭介著の『スクラップ・アンド・ビルド』についてまとめてみました。健斗が祖父のために実行する計画は、逆説的ですが今の介護の問題を提起している部分も少なからずあると思います。

また羽田圭介さんの作品では、『ポルシェ太郎』という小説もお薦めです。こちらも本作同様に主人公の思考にクセがあって、読んでいてクスッとするような面白さが満載です。若手起業家が街で偶然見かけた高級車・ポルシェに惚れて購入するという軽めの内容で、さらっと気軽に読めます。



以上、最後までお読みいただきありがとうございます。
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