【解説】アルツハイマー型認知症の新薬「アデュカヌマブ」


今回は、アルツハイマー型認知症の新薬として米国で承認された「アデュカヌマブ」について紹介していきます。

アルツハイマー病の新薬は約20年ぶりで、今後の認知症治療にも大きく期待されています。本記事では、これまでの認知症薬との違いやアデュカヌマブの効果・安全性、そして今後の展開をまとめてみました。新薬について気になっている方は、ぜひ最後までご覧ください。



これまでの認知症の薬物療法

アルツハイマー型認知症とは、脳内の「アミロイドβ」というたんぱく質の断片がたまり、脳の神経細胞の死滅、脳の萎縮を原因とする認知症です。認知症全体の約半数の原因とされています。

現在の主な認知症の薬は、ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン、リバスチグミンがあります。薬の作用として、アルツハイマー病で神経伝達物質(アセチルコリン)が減少するのを抑制し、認知機能の改善を図ります。

これらの薬剤は、認知症のある段階において認知機能の改善や維持に一定の効果が認められています。しかし根本的な治療薬でないため、長期の治療では効果が下がります。以前の記事で認知症の薬の効果と副作用について紹介しているので、詳しくはそちらはご参考ください。



認知症の治療薬「アデュカヌマブ」

アデュカヌマブはアルツハイマー病の初期段階で蓄積するアミロイドβを除去するように設計された抗体です。毎月患者に抗体(アミロイドβを標的とした)を注入することで、凝集する前のアミロイドや凝集したアミロイドβに結合し、免疫細胞を誘発して除去してくれます。

次の図はアルツハイマー型認知症の病気の進行とこれまでの薬との違いを簡単に示しています。これまでのアリセプトなどの薬は認知症の症状を抑えることはできますが、認知症の進行そのものを止めることはできません。対して、アデュカヌマブは認知症の原因物質とされるアミロイドβを除去し、根本的な認知症の治療ができると期待されています。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: アデュカヌマブ2-1024x578.jpg


アデュカヌマブの治療対象者は?

アデュカヌマブの治療を受けられる対象者は、アミロイドβの蓄積が確認されたアルツハイマー型認知症の初期段階(軽度認知障害および軽度認知症)の患者です。アルツハイマー病が進行し、すでに脳の萎縮が起こっている患者に対しては、治療対象外になっています。

アデュカヌマブの効果は?


2019年に臨床試験である第三相試験の結果が公表されていてます。アデュカヌマブの78週投与で認知機能の低下が2割ほど遅くなったと報告されています。(以下、第三相試験の結果)

  • アミロイドβの蓄積が59~71%減少する。
  • 臨床症状の悪化を抑制(MMSE:15%抑制、ADAS-Cog13:27%抑制)
  • 記憶、見当識、言語の認知機能において顕著な効果あり。
  • 金銭管理、家事、単独での外出でも日常生活動作への効果もみられる。


しかし別の試験では、アミロイドβの蓄積は減少しましたが、認知機能の悪化は抑制できていないという結果でした。この結果について、開発側のバイオジェンは被験者の人数や投与する量を要因として挙げています。実際の効果について今後も見守っていく必要がありそうです。

アデュカヌマブの安全性・副作用は?

アデュカヌマブの安全性については、投与を受けた3000人以上の患者で十分に確認されています。

副作用で最も多いのが、アミロイド関連画像異常(ARIA)という脳浮腫でした。ARIAが発症した患者の大半は無症状で、4~16 週間以内に解消し、長期間におよぶ臨床的後遺症もありません。しかし中には頭痛や錯乱、めまい、視覚障害、吐き気などがみられています。今後実際に治療を進めていく際には、副作用にも注意し、もし発生した場合は治療の継続を検討する必要があります。

今後の展開について

2021年6月7日に米食品医薬品局(FDA)は、日本の製薬会社エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」の迅速承認を発表しました。承認の理由として、患者の脳内に蓄積したアミロイドβが、同薬の投与によって減ることが臨床試験で確認されたと説明しています。一方で、認知機能の低下を抑える効果については、2つの異なる臨床結果から今後の検証試験で有効性を確認していく必要があります。

現在アデュカヌマブは、日本や欧州でも新薬として承認申請をしています。今回の米FDAでの迅速承認の結果を受けて、他の国でも承認が期待されています。

今後の課題として、次の2つが考えられます。

①治療対象者への検査方法
まず治療を受けるためには、認知症の初期段階に脳のアミロイドβの蓄積を確認することが必要です。アミロイドβの蓄積は認知症を発症する20年前から始まっているとされ、どのようにしてアミロイドβが蓄積している無症状・軽度の患者を診断していくかが課題になります。

そしてアミロイドβの蓄積を検査する方法はアミロイドPET検査などがありますが、費用が高く、身体への負担も大きいため、一般的に広く普及していません。最近、血液検査でアミロイドβの蓄積を確認する方法も開発されていますが、検査方法についても今後の課題でしょう。

②治療薬の価格
エーザイが発表している薬の価格は、年間約600万円(日本円)と高額になっています。今後承認されれば、保険適用される可能性もありますが、認知症の患者が多くいるため、社会的な負担が大きくなると予想されます。薬の価格については、薬の効果とそれによる介護など社会的な負担の軽減を合わせて考えていく必要がありそうです。

また米国での治療において、エーザイは十分な医療サービスを受けていない方々に向けて、治療アクセスを確保できるように支援プログラムも発表しています。



最後に…

今回のアデュカヌマブの米FDAの承認は認知症の治療へ大きな一歩だと思います。これに続いて、現在他の複数の新薬が臨床試験を進めています。近い将来、認知症が治療可能となる日が来るかもしれません。

アルツハイマー病の治療薬の開発の歴史を知るのに、「アルツハイマー征服(著・下山進)」もおススメです。今回紹介したアデュカヌマブや過去にエーザイが開発した認知症の代表的な薬(アリセプト)の開発の道のりを丁寧に取材し、描かれています。認知症の薬の開発までに多くの壁があり、その時々の登場人物の思いに心打たれる素晴らしい一冊です。



以上、【解説】認知症新薬、アデュカヌマブでした。最後までお読みいただきありがとうございます。本記事で感想や意見等をありましたら、Twitter(@taro26179991)までお願いします!



参考資料

〇 エーザイ株式会社ニュースリリース
アデュカヌマブ 臨床第III相試験で得られた大規模データセットの新たな解析結果に基づき、アルツハイマー病を対象とした新薬承認申請を予定
ADUHELM™(アデュカヌマブ) アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬として米国FDAより迅速承認を取得

Aducanumab produced a clinically meaningful benefit in association with amyloid lowering




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です