こんにちは!
現役介護士のTARO(@taro26179991)です。
今回は、「触れる」という行為の科学的な効果をまとめていきます。
介護現場では当たり前のように高齢者の身体に触れていますが、触れ方や相手との関係性によって、ある時は「癒される・不安を和らげる」などの効果があり、ある時は「ストレスや嫌悪感」に繋がる、とても奥の深い行為です。
「触れる」ことの意味
動物が赤ん坊へ触れる意味
まず多くの動物では、赤ちゃんが生まれると、親子で体を寄せ合います。これは、一つに体温調整機能の未熟な子供に触れることで、体温低下を防ぎ、体温を維持する効果があります。
「触れる」ことの効果の一つには、多くの動物が共通する体温の保持が挙げられます。また幼少期の母親との触れ合う記憶から、「触れる=安心・心地よさ」に繋がっています。
皮膚の温かさと心の温かさ
米国の有名な研究で、以下の実験があります。
温かいコーヒーと冷たいコーヒーを持ってもらった状態で、「ある人物のことを書いた文章」を読んでもらい、その人物の印象を評価した。すると、手に温かいコーヒーを持った被験者の多くは、その人物に対して「親切」や「寛容」とプラスの印象を抱いくことが分かった。
他の研究でも、皮膚を温めることで、心理的距離が近くなるや人を信頼しやすくなることが分かっています。
なぜ身体的な温かさと心の温かさが関係するのか?
理由の一つとして、身体的な温かさで興奮する脳の島皮質や線条体の部分が喜怒哀楽や不快感、恐怖などの感情にも関与していることが挙げられます。これにより、身体的な温かさは感情との結びつきも強いようです。
また皮膚にある触覚の受容器、C触覚繊維は「心地よい・気持ち悪い」といった感情と関係しています。このC触覚繊維が興奮すると、脳の島皮質や線条体へ刺激が到達します。さらに脳内でセロトニン神経の活性化し、抑うつや強い不安に対しても、症状が緩和します。
C触覚繊維が興奮する条件は、触れる速度が秒速3~5cm(非常にゆっくり)かつ、柔らかい物質の接触といわれています。
「触れる」ことの効果
- 体温低下の防止、維持
- 安心感や心地よさを与える
- 不安や抑うつの症状を和らげる
- 身体的な痛みを和らげる
- 他者とのつながりを感じる、自尊心が高まる
ただし、信頼関係が築かれていない状態や不快な触り方によっては、逆にストレスとなる場合があります。
介護現場で「触れる」ことの意味

「触れる」ことは、広くすべての人にとって有効ですが、特に高齢者や介護・福祉の現場ではその効果が一段と期待されています。
例えば…
・認知症の進行とともに、言語での会話が難しくなると、本人の不安や孤独感が増してくる。そんな中で、「触れる」という非言語の行為は誰に対しても可能であり、認知症の方の不安や孤独感を緩和することができる。
・終末期や緩和ケアにおいて、症状や治療の苦痛、死への不安や恐怖を抱える方に対して、「触れる」ケアによってその脅威を和らげることが期待される。
「触れる」技術
以下、介護現場で活用できる3つの「触れる」技術を紹介します。
⑴ユマニチュード
フランスで生まれた認知症のケア技法。相手を人として尊重するための「見る」「話す」「触れる」「立つ」という行為を柱とする。「見る」や「話す」を十分に行い、信頼関係を構築することや適切な触れ方によって、認知症の方の行動・心理症状が減少や、ケアに対する拒否が減るなど、本人と介護者の負担を減らすことができる。
⑵セラピューティック・ケア
英国赤十字社で開発された両手の温もりだけで行えるシンプルかつパワフルなケア方法。 基本は「エフルラージュ(なでること)」と「ニーディング(こねること)」。実際の実験でもセラピューティック・ケアを行うことで、安心感や痛みを軽減するオキシトシンのレベルが上がり、ストレスが減少することが分かっている。
⑶タクティールケア
1960年代にスウェーデンで未熟児のケアから生まれた方法。1996年ころから認知症ケアにも導入される。手を使って相手の背中や手足を柔らかく包み込む感覚で触れることで、オキシトシンの分泌を促し、心地よさや安心感、痛みの軽減といった効果がある。
まとめ
最後に、介護現場での基本的な触れ方についてまとめてみました。
〇温かい手で触れる
身体的な温かさは心の温かさにも密接に関わっている。
〇優しくゆっくりと柔らかく触れる
C触覚繊維が興奮し、心地よさを感じる。
〇信頼関係を築いた上で、触れる
相手を人として尊重し、触れることを予告してから触れる。
私自身介護の仕事をしていると、当たり前のように相手に「触れる」という行為をしています。しかし「触れる」という行為は非常にパーソナルな行為であり、不意に相手に触ることで警戒心やストレスを与えてしまいます。そして「触れる」ことで相手を癒したり、安心させたりとプラスの効果が大きいことも事実です。この機会にぜひ介護の現場で相手にどのように触れているか考えてみてください。
参考資料
『人は皮膚から癒される/著 山口創』
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